雑音を纏いながら。 -2ページ目

波間にて

意識してセーブするのと、

根っこからロウテンションなのとは、やっぱり違う。

低いひくいテンションのまま、久しぶりの学校。


夏休み明けの子どもみたいな、不安な気持ちを抱えたまま、

うまく寝つけず、夜中に何度も目が覚めて、テスト中みたいだと思う。

でも、もう子どもみたいに、学校に行き渋ったりはしない。


休んだら、後々もっと行きにくくなること、行きたくなくなること、知ってるからね。



久しぶりに会うみんなは、元気で瞳はきらきら、若いほっぺはぴかぴかしていて、

本当に、眩しいくらいです。


1年前の春は、どうしてたんだろうって思うけど、

1年前は、みんな知らない他人だったから、かなり距離を置いてたんだ。

今は、みんな知ってるクラスメイトで、

中には、仲良くなった子もいて、距離を置くのもはばかられるかなとか、またもやもやと悩む。


でも、ドタキャンはダメだ…と、丁寧に食事のお誘いを断る。

そしてまた、断ったことに落ち込みそうになってたら、相次いでメールが届く。


>誰でも、曇りの日ってあるから、気にしないで!大丈夫よ。

>あんまりいろいろ気にしすぎないで、もーまんたい!


なんとも心強くて、ほろっと泣きそうになる。



1年付き合ってみて、私が相当めんどうなキャラクターだということも、

今までいろいろありました、ということも話していて。

全部がぜんぶ、きっちり伝わったわけじゃないだろうけど、

なんとなくわかってくれてるのかな、と感じられるのって、とってもありがたい。



>また、ぼちぼち復調します。


そう返信して、自分にもそう言い聞かせる。

ずっと同じように、落ちてるわけじゃないってこと。

不安はぼんぼん募るけど、なんとかなる。たぶん。


今は、この波間に漂っていよう。



リレー

私は強くない。いつもそう思う。

この頃は、そう弱くないかもしれないって感じています。

それから、それも悪くないって。



震災から、もうすぐ1年。


1年の間に私はなにができたかな、と振り返ったら、

本当になにもできていなくて、

自分のことにかまけて、気づいたら時間だけが過ぎていました。


春休みになって、久しぶりにフロイデの映像を見て、

また、がんばらなきゃって勇気が少し湧いてきました。



最近、テレビでもよく被災地の映像を見かけます。


被災していない私でさえ、目をつぶって夢であってほしいと願ってしまう。

でも、夢でも映画のワンシーンでもなくて、今も続く現実で。

テレビには映らないたくさんの場所で、

たくさんの人が、まだずっとつらい思いを抱えている。




荷物が多いときは、隣の人に半分持ってもらったらいい。

でも、隣の人も荷物をたくさん持ってるときはどうしたらいいんだろう。


ほんとなら、私がすぐに隣に並んだらいい。

心配してるって思うだけじゃ、

誰もお腹はいっぱいにならないし、安心して眠れるわけでもない。


そう思ったりもします。

私が、小さなことをしてるだけで、なんになるんだろうって。



だけどまず、私にとって隣の人の心に寄り添えたら。

大きなことはできないけれど、私にもできることはあるはず。

いつも、そう思ってる。


ちょっとずつだけど、気持ちを届けられますように。

リレーみたいに、その気持ちがつながっていきますように。




1年前、祈るような気持ちで見た菜の花が、また黄色い花を咲かせています。

啓蟄に

2月は、遅い冬眠のようにずうっとじーっとしていました。

頭の中では、啓蟄になったら私も動き出そう、とは思っていて、

でも、ゆるい眠りから覚めるのはなかなか難しいです。


今日は啓蟄、朝から雨。慈雨のようです。



最近気に入っている詩をひとつ、紹介します。

上田敏の流麗な日本語は、口にするとみずみずしいかぎり。



もう春は来ているみたいです。



***



燕の歌


                          ガブリエレ・ダンヌンチオ/訳:上田敏


彌生(やよい)ついたち、はつ燕

海のあなたの静けき國の

便(たより)もてきぬ、うれしき文を。

春のはつ花、にほひを尋むる

あゝ、よろこびのつばくらめ。

黒と白をの染分縞(そめわけじま)は

春の心の舞姿。


彌生來にけり、如月は

風もろともに、けふ去りぬ。

栗鼠の毛衣脱ぎすてて、

綾子(りんず)羽ぶたへ今様に、

春の川瀬をかちわたり、

しなだるゝ枝の森わけて、

舞ひつ、歌ひつ、足速の

戀慕の人ぞむれ遊ぶ。

岡に摘む花、菫ぐさ、

草は香りぬ、君ゆゑに、

素足の「春」の君ゆゑに。


けふは野山も新妻の姿に通ひ、

わだつみの波は輝く阿古屋珠(あこやだま)。

あれ、藪陰の黒鶫(くろつぐみ)、

あれ、なか空に揚雲雀。

つれなき風は吹きすぎて、

舊巣(ふるす)啣えて(くわえて)飛び去りぬ。

あゝ、南國のぬれつばめ、

尾羽は矢羽根よ、鳴く音は弦を

「春」のひくおと、「春」の手の。


あゝ、よろこびの美鳥(うまどり)よ、

黒と白との水干(すいかん)に、

舞の足どり教へよと、

しばし招がむ、つばくらめ。

たぐひもあらぬ麗人の

イソルダ姫の物語、

飾り畫ける(えがける)この殿に


しばしはあれよ、つばくらめ。

かづけの花環こゝにあり、

ひとやにはあらぬ花籠を

給ふあえかの姫君は、

フランチェスカの前ならで、

まことは「春」のめがみ大神。