雑音を纏いながら。 -306ページ目

真夜中に家を抜け出す。

彼の声が震えていて、

私は、どうしようもなくて、家を抜け出した。


一瞬で着替えて、荷物も、お金も少なく、

11時前、こっそり家を抜け出した。

妹は、気付いていたらしいけれど。


彼に止められたけど、

今、傍に行かないと。


電車の中で、お母さんと妹にメールしたら、ありがたい返信。

「後悔せぇへんなら、そのほうが何倍もいいな。夜も遅いし、気ぃつけるんやで」


11時40分に天王寺で会えた。

仕事帰りそのままで、少しくたびれた様子。


ホテルに入って、話を詳しく聞いた。

いろんなことを話した。


彼は、やっと安心して眠ったみたいだった。


朝起きたら、隣りに寝顔があって、また眠った。


10時過ぎに、喫茶店で朝ごパンを食べながら、また話す。

私は、この人を支えよう。

してあげられることは、少ないけれど、傍にいよう。


彼のお父様の看病をする、お母様。

山口で二人で暮らしている。

もうすぐ、入院。

彼は、もしかすると山口に帰るかもしれない。

私は、そのときどうするだろう。



私が彼に出来ること。

ご飯を作って、フリーズしておいて、託す。

話を聞く。愚痴も聞く。

無理強いをしないで、ありのままの彼を受け入れる。

少しでも、彼の傍にいる。


今、

私はまた千羽鶴を折り始めている。


水は低い方に流れる。

なぜ、凶事は立て続けに起こるのか。




彼のお父様の病状が悪化したらしい。


去年の夏、

癌が見つかったと連絡を受けた時は、

本当に、何て声をかけたらいいのかわからなかった。

ただ、

私は1人で千羽鶴を折った。

家族に手伝ってもらいながら、10日もかからずに。

お盆も返上して、果てしないほどの鶴を折った。


千羽鶴


お盆明けに、大阪駅まで彼を見送り、

お弁当と一緒に、千羽鶴を託した。

迷惑だったかもしれない。

久しぶりに乗った電車で、ふらつきながら帰った。


彼の実家は山口で、

それからも度々、帰省していた。

私に出来ることは、何もなかった。

ただ、祈るばかりだった。


幸い、手術は成功してお父様は回復なさっていった。


今年、落ち着いてきていると思っていた。

民生委員も引き受け、銀行にも復帰し、

元気にしているように、聞いていた。


お父様に面識はないけれど、

笑顔の写メールを見て、

彼と同じ空気を持った方だなと思った。


5月に入り、

彼のお祖母様が亡くなられた。



今日、

実家のお母様から連絡があったらしい。

私に転送されてきたメールの内容は、

目を瞑りたくなるようなものだった。


>腫瘍マーカーが倍近くなり、

 Dr.から新薬の投与の説明がありました。

 まだ、日本人ではデータが内容で副作用の心配をしています。

 入院は3,4日になるようです。


彼からの追伸で、

精神的にボロボロです。

仕事、頑張ってきます。


私は、言葉を失う。


なぜ、辛い思いをしている人に追い討ちをかけるのか。

なぜ、今また再発してしまったのか。


神様は、こんなに残酷な仕打ちを用意していたのか。


十字架への道


水は低いほうにしか流れない。

運命は決まっている、ということか。


そんな遣り切れないものなら、

ケリ入れて、ぶっ飛ばしてやりたい。


今、

彼を突き放すことは、

私には、できない。



くまを作る。

悲しいときは、ぬいぐるみを作る。


桃子


小さい頃着ていた服を解体して、

集めてた可愛いボタンを4個そろえて、

パーツごとにチャコペンで線引いて。

小さな、くまを何体も作る。


半返し縫いで、ちくりちくりと縫いながら、

彼のことを考えてたら、親指から血が流れた。


腕を縫い終わったら、胴体にとりかかって、

少し血の付いたくまの頭を撫でた。



くまは何も喋らないし、私も何も喋らない。



ちくりちくり。


針が進む速度が速くなっていくにつれて、

私の視界はぼやけてくる。


はやく。



くまの名前を考えながら、耳をつける。


フェルトは何色にしようかな。



ビーズで目をつけたら、もうすぐ完成。

ボタンでパーツをつないでいくと、


くまが悲しい顔をする。




首にリボンを結んで、

名前小さな声で呼んだら。


しげ


私は、またくまを作るのかな。